9月らしい天高く澄みきった朝。しかし気温は真夏並みで肌を刺す日射し。
あー、また真っ黒けだな。
定刻より早く二人がわたしの家へ到着した。彼女らは昔から時間に遅れたことがなかったが、歳とともにさらに早くなった気がする。
ともあれ一台の車に合流して出発。そういえば久方ぶりの友人との外出。
ひとりは現役で福祉施設勤務、ひとりは調理の腕を見込まれパートで働いている。
気がつけばフリーなのは私だけ。
おもえばこのメンバーで昔からよく遊んだ。
仕事の帰りに夜中まで風呂でだべりよく食べた。介護保険発足以前、福祉に転職した時の同期で研修時から机を並べたせいか、クラスメートのような感覚があった。
旅行もこの仲間とよく行った。
若い時期を過ぎて知り合ったせいか旅行はもっぱら温泉旅。福祉の、とくに介護保険関係の仕事はハードだったが、合間をぬるように寝不足も平気で出かけた。どんなに疲れていてもかれらと時間を過ごすと、心も体も元気になることを知っていたからだ。
小一時間もかからない温泉までの車中ではすでにウキウキ気分。
軽口を含めて言いたい放題しても誤解がないのがいい。
ただ、会話は高齢者の例にもれずやや吃音気味となり「アレあれ」「ほらホラ」「えーと、エート」と想起が甚だ遅くしばし意味不明になる。
語彙量の減った頭で的確な言葉を探しながら会話を楽しむのだ。
山一つ越えた高台の見晴らしの良い温泉施設で、浴室が内外合わせて六個ほどある。
早速露天風呂に直行する。平日のせいか我々と年齢の変わらなさそうな方たちがまばらだったが、周囲を取り囲むように設置された屋根付きの露天風呂に集中していた。
だが、いちばんお目当ての大浴場は炎天下のどまんなか。
だれひとり入っていないその湯は、さらに強さを増した陽に照りつけられ、ギラギラと光っていた。
「どうする?」「誰も居らんし行こや」よし、とまず二人が先陣をきる。
ところがその湯までは石だたみになっていて、おもいきり石が焼けていた。
「あっつ、つ、つー」気がつけばスッポンポンで全力疾走となる。
飛び込むように湯に入り、何ごともなかったようにすまし顔の友人A子。
内湯からB子が面白そうに見ているので、手招きするとしぶしぶ彼女も走って来た。真夏の海水浴場の砂より熱い。必然、走らざるをえないのだった。
湯に照り返す太陽に白内障になりかけている目を細めながら、友人たちの様子が楽しくて仕方がない。じりじりと焼けつく太陽に追い立てられ、ものの五分ほどで内湯に戻った。
とりとめない会話をしながら、なにげに二人の肢体をながめていると、思えば30年近くおそらくは誰よりも互いの老化の変化を見届けてきたことに気が付き、感慨深い思いにひたったのだった(?!)
そうあの頃はみんな、スタートした未来に心も体も張り切ってピカピカだったっけ。
皮膚の表面は湯をはじき、出っ張った個所はちゃんと重力に逆らって自立してくれていたものだ。
B子が同じ思いだったのだろう、遠くに目をやり「きれいねえ」と言っている。
その方向を見ると若い人がふたり、上気した肌が湯の玉をはじきながら湯船から立ち上がるのが見えた。
(うわー、まぶしい!)その美しさに目が離せず、なめるように見入ってしまった。
いや、私はオッサンか!
食事の後は、お決まりのソフトクリームと休憩室でごろごろ。その間もおしゃべりは止まることがない。
なんども温泉と心地よい空間を堪能した夕暮れ、こころもち秋の風を感じる山あいを抜け、終わりを惜しむようにあちこち寄り道しながらの帰り道になった。