
今朝は冷えた。明け方、薄い布団から冷気が身体に沁みてきて眠れず、まーるくなって朝を迎えた。
同室の母はと言うと、カーカーといびきをかいている。寒くはなさそうだ。
部屋の電気は付けないまま犬の散歩に出る。深呼吸が気持ち良い空気のなか、夏の間は歩くのを嫌がっていた犬も足取りが軽い。
少し歩くともう体があたたまり上着を脱ぐ。犬は飼い主の顔を確認しながら、電柱ごとに片足を上げる。
「よくそれだけシッコがでるねぇ」と笑ってしまう。
短い幸福な時間から戻ると、母が起きていた。
「寒い」
「だから、それは夏物だから。ここから着たいものを出して着てちょうだい」
って、毎日言ってるよねぇ、と心の中でブーたれる。
しばらくして見に行くと、上から夏物のブラウスを羽織っているだけで、寒そうにしたまま。
部屋中の収納引き出しやクローゼット全部に、内容を大きく書いて張り付けているのだが、母はどうやらベッドに座った時の、目の前にあるひきだしにしか目や頭が行かないらしい。
「ほら、ここ」冬物の入ったクローゼットを開いて示すが、ボウーッとしていて理解できていない様子が目を見て分かる。
二つ三つ取り出してみせるとようやく腰を上げた。
その後、満足気にリビングに入って来た格好に驚いた。厚手のスパッツに、カシミヤのセーター、その上に防寒の部屋着を着て現れた。
「・・・・・」しばらく絶句。(今からそんな恰好で、冬になったらどうするのよ)
最近私はえらいのだ、何も言わない。
まあ、いっか。暑くなれば脱ぐだろう、イヤ待てよ。体感温度がわからなくなっていれば、汗をかいても着てるかもしれないか。そういえばそういうお年寄りをたくさん見たなぁ・・・
昼食の頃になるとさすがに気温が上がり、嚥下困難の老人食を摂りながら
「少し、暑いねぇ」と言っているからおかしくなった。
ちなみに私は半そでだよ~。
もう母は、状況から判断したり、その場にあう言葉を選ぶことはできなくなった。
ときどき妄想発言も見られるようになった。彼女だけの世界が出来てきたようだ。
いよいよ本格的な介護生活が始まる。いやもう始まってるのかな。