
突然右足に疼痛がきた。
いや、よく考えると、数年前から違和感はあったような気がする。
座っていて臀部の骨が痛いとか、椅子から立ち上がった時、すぐには痛くて足が伸ばせないとか、そういえばいろいろ見過ごしてきた気がするなぁ。
足を地に付けると、ちょうど歯が痛い時のような、キーンとした突きさすような激しい痛みがお尻から右足を突き抜け、思わず声がでてしまう。
病院嫌いの私も、さすがにすぐさま駆けつけた。幸い車の運転には支障がない。
とりあえず、近くの外科に行くと、レントゲンを3枚撮られたが、目立った異常はなく、症状からの問診で「坐骨神経痛だねえ~」となった。
処方もなければ、極超短波(マイクロ波)による温熱療法と腰の牽引のみ。あまりに対処療法すぎる。もちろん激しい痛みは変わらず、2度ほど通ったがやめた。
次は整形外科とリハビリテーション科を持つ医院に行ってみた。
前の医院と違ってなんと患者の多いこと。開け放たれた入り口付近まで人が居て活気がある。これなら医師の経験値も高いだろうと期待!
下肢を下着だけにして、問診の後はちゃんと触診あり。「坐骨だけじゃない、いろんな神経だね。神経痛!」とのお言葉。どうしてこう、医者ってのは愛想がないのだろう。
まあいい、治れば良いと笑顔で対応する。
マジックのようなもので鼠径部と腿の中ほどにしるしを付けると、看護師に「レーザーと電気ね」と指示。え、注射じゃないのね。
みんな看護師の制服で、リハ科を掲げてるわりには理学療法士が居ないような気がするのだが...この際そんなことはいい。治ればいいのだ。
「はい、ここに上がって横向いてー」いや、だから痛くてできないんだってば。周りも似たような患者ばかり、これだけ多いといちいち一人に構ってはいられないのだろう。
「あらあ、痛いねえ、辛くない姿勢でいいですよぉ」ちょっと優し気な言葉に涙が出そうになる緊張感の中、レーザー照射と低周波治療が行われた。
これがリハビリテーションとして料金を取られるのね。なんか違う気がするけど、まいい、治れば。
医師が「お薬出すからね。これはよく効くよお」とカーテンの陰から笑顔で顔を出した。う~ん、このパターンは危険だ。素直でない私は、もらう前から思わず、薬に警戒心を持ってしまった。
その日からタリージェ(ミロガバリン)を飲んでいる。1日二回5mmずつ、一般的にそんなものらしいのだが。ところが、可愛い名前のわりには副作用が強烈だった。
● 傾眠、浮動性めまい、浮腫、体重増加、ふらつき、傾眠状態、意識消失、食欲不振、吐き気、嘔吐、黄疸(肝機能障害)、尿量減少、むくみ、全身倦怠感(腎機能障害)
これだけでも、寒気が走るのに「以上の副作用はすべてを記載したものではありません」だとー!
でも、痛い!だから処方通り死ぬ気で飲んだ。
二日目、眠れないほど痛かったのがずいぶん軽くなっている。
布団から体を起こすときにふわっと身体が浮く感覚があり、その後しばらくフワフワと足が地に着いていないような感覚が続く。
同時に気分がやけにハイなのだ。高揚感というか大げさに言うなら全能感のようなものを感じて、ずいぶん気分が良い。おもわず、これは麻薬か、と思うほど。
初めての感覚に戸惑い、これはヤバいと感じた。間違いなくタリージェのせいだ。タリージェはオピオイド(麻薬性鎮痛薬)のような「麻薬系」ではないが、神経障害性疼痛の治療薬で、たしか中枢性ではなかったか。とすると痛みの神経を鎮めるだけでなく、一部、脳にも作用する。
同じ系統の薬にリリカ(プレガバリン)があるが、現職の際に重度高齢者にほとんど処方されており、たしか依存性が強かったように思う。
気分がハイの間は、口が渇きのどの奥までカラカラになったような気がしていた。舌もパサパサになり口蓋に貼りつくようだ。喉が渇いて水が飲みたいのではないが水を求めてしまう。
これがそうか。タリージェはリリカ系の薬だから、しっかり中枢神経に作用している。
リリカに比べるとタリージェは依存リスクが少ないがゼロではない。
色々考えると、頭の中で恐怖が渦を巻き始める。
が、神経系の薬は初めてなので、怖いもの見たさに似た感覚もあり!?(ハイのせいか)
自分の身体で「以上の副作用はすべてを記載したものではありません」を証明したような体験だった。
その後数日で気分も口内の異常も元どおりになった。心配した反動の落ち込みもなく、自然にめまいもフワフワ感も消えた。と同時にまた、痛みが徐々にぶり返してくるのがわかった。薬に慣れたようだ。
「低周波で筋肉をほぐして、レーザーで痛みを取ろうねー」と明るい看護師さんの言葉を信じて、数日に一度の対処療法に通うことにした。
もうこうなれば長期戦だ。気長に付き合っていくしかないと覚悟を決めた。