今年の春は、良い天気が続き桜の開花が例年になく早かった。
友人は実家の京都へ帰省の際、奈良まで足をのばし「吉野の桜」を見に行くと張り切っていたが、予定の日にはもう桜が散ってしまいそうだと悔しそうな様子。
「じゃあ、ほかのところに行けばいいじゃない」と言うと、「だって、ツアー申し込んでしまってるもン」と、一目千本を全部見ないと気がすまないかのような意気込みに笑ってしまった。
いいじゃあないですか、この最高の季節にどこかへ行けるだけ。
一目千本と言うくらいだから中千本か上千本は見られるでしょう。
うちはというと、ますますデブになり走り寄ってくる姿がもはや熊かと思う黒マルプーと、ふらつく足で果敢に散歩に挑むバアチャン犬が、あついまなざしで見つめてくるので、「よし!」と腰を上げ遠出をすることにした。
若いころは、春という季節が一番嫌だった。
全ての人が前途洋洋にスタートを切るはじまりのような、おもいきり明るい空気が毎年気持ちを重くした。
ひたすら、自分の不安定な思いをコントロールしながら、時期が過ぎて春の息吹をやり過ごしてきた気がする。
ところが、自分なりに課題を全うしシニアを迎えた今年は、桜が違って見える。
春の空気をもう全身で受けても平気だ。
気持ちの中に焦りも屈託もない。春を満喫していいんだ、と改めて自分で確認できる。
学生の頃から「自分に何が出来るのだろうか」と将来の不安を胸いっぱいにして見てきた桜が今、別の花になって私を包んでいる。
花曇りだったけれど、国東半島と佐賀関半島に挟まれた穏やかな別府湾を前に、気持ちはまだミドルいや、今やっと若者になれたかもしれないくらいはしゃいでいる。
住み心地No.1の評価があるという人口約28.000人の小さな町、日出(ひじ)町というところを歩いてきた。
へえー、「城下かれい」はここが本場なのか~。
豊かな自然を持ちながら、生活施設インフラが揃ってる。
キティちゃんの町? そうなんだあ~!
見るもの聞くもの珍しく、お二匹はと言うと、これまた嬉しくて仕方がないらしく、よく歩く、よく〇ンコする、よく〇ッコするで振り回されてしまった。
海風が少し肌寒く、なんとも心地よい。
海沿いの大きな桜から花びらが舞う中を歩く至福感。
こんなところに住めたらいいなあ、とあこがれてしまった。
でも、歳をとるということは憧れと現実が違うことを知るということ。
あ~あ、何も考えずに熱い思いだけで走れるうちに移住しておけばよかった、などと取り留めのない妄想をしながら、春のなかにひたりきる。