強度の難聴と進行中の認知症のせいで高齢の母と通常の会話が成り立たなくなり、食べられないものが増え、それでも「まだ歯があるからねえ、あたしゃなんでも食べられるよ」と減らず口を言うことにイラつき、排便が不規則になり、いつ転倒するかハラハラしながら一挙手一投足を見張り、あ、違う、見守り。
次第にどこかで施設入居が頭に浮かぶようになったこの頃。
とにかく、同居している家族は四六時中苛立って不機嫌になる現実。
つい昨年まで、支援する側のプロと自負していた自分だけに余計情けない。
【目次】
在宅介護の限界を感じる時
介護保険発足以来、高齢者の支援をさせていただいた中で、ご家族が在宅介護の限界を感じる時は以下の内容が主な理由だった。
①排泄介護の負担が大きくなった時
②認知症で暴言暴力が過剰になった時
③医療的な看護が必要になった時
医療と介護の違い
その中で③については、現在は訪問看護ステーションが充実している。
あまり医療度が高いと介護保険施設では受け入れてもらえないが、昨今は病院でできる治療のほとんどが在宅で行ことができるため、生活の質を求めて在宅療養をされる方が多くなっている。
社会的入院による医療費の圧迫から、2000年に介護保険制度が開始されてからは、病気の治療は医療機関、要介護者の介護についてはソーシャルワークでとすみ分けされた。
その後は長期入院に及ぶと診療報酬を減額することで、長期入院の抑制が図られ、在宅で介護保険の医療サービスを使う人が多くなったことは理にかなっていると思われる。
介護保険認定調査のヒント
ここで余談をひとつ。介護保険の認定調査の時によく、これまでの病歴をトクトクと述べる方が多いのだが、介護保険の成り立ちを考えればそれが全く無駄なことだと理解できる。
たとえ調査員がウンウンと親身に聞いていたとしても、それは心情的な部分からそうしているのであって、調査内容にはなんら反映してこないことを知っておかなければならない。
それより介護保険の認定調査においては「介護の手間・大変さ・心身ともに介護者の負担がどれほどのものか」を具体的にとうとうと述べるのが調査の目的に合致する。
たとえば、〇〇病のため、△△ができず、家族が✕✕や・・・の介護をしなければならないので限界にきている、などが良い。
もっとも高齢の方が治療のために短い期間でも入院したとしたら、著しい機能低下が起きる可能性が高く、下手をしたら在宅での暮らしが、再びは不可能になってしまうことを考慮に入れて治療の方法を選択することになる。
施設を考えるのは罪悪ではない
①については、ご家族が一番悩むところだと思われる。介護の経験者ならともかく、まして介護者が男性の場合①は相当に生理的な負担の限界がくる。
よく切羽詰まった様子で、いきなり施設探しのSOSが入るのは、夫や息子さんからが圧倒的に多かった。
②は十分注意をしていないと、過剰な介護負担のストレスからDVに発展するケースが多く、専門職は一番気を張っていなければならない。
入所相談があった際は、支援者は介護者の決意のほどを確認することになる。
ひとたび施設入所をしたら高齢者の場合、まず在宅復帰は困難になる。
高齢者には環境が変わることが、なにより大きなダメージになるからだ。
かといって、施設を選ぶことを躊躇する必要もなければ、後ろめたく感じることもさらさらない。
大勢の仲間たちの中で、見違えるように明るくなった高齢者の方を多く見てきた。
人間は幾つになっても同年代といることが一番楽しいそうだ。
とくに認知症の方には、思い悩んで暗く落ち込む家族が毎日そばに居るより、時々会える、笑顔の家族の方がだんぜん良い。
終の施設を選ぶまで
しばらく自分を解放した後、また在宅で介護したいのであれば老人保健施設やショートステイを紹介することになる。
が、もう金輪際在宅で介護は無理、自分も後悔しないというのなら、終生利用の施設を紹介することになるのだが、この場合はその時点の要介護の状況によるので、一概にどの種類の施設とは言い難い。
ただ、介護者は多かれ少なかれ自分を責めギリギリまで自分を追い詰めて、もうお手上げ状態で訴えてくる場合が多く、すでにご本人はたいてい重介護状態であり、特別養護老人ホームの紹介が多かったような気がする。
ただご承知のとおり、特別養護老人ホームはすぐに入れるわけではないため、支援者は空室を待つ間の施設を準備することになる。
たいてい縛りの少ない住宅型有料老人ホームを紹介することが多かった。
これは最近では乱立していて、なかなか内容の良しあしがつかめなくなっている。
また担当のケアマネジャーを見誤ると「最近出来て新しくてきれいですよ」などの理由で進めてこられるので気をつけないといけない。
「ぐんぐん伸びている施設」と業界で称せられる施設にも気をつけたほうが良い。
乱暴な経営のつけで、いきなり行政から指定取り消しを食らうところもあるからだ。
懸命なケアマネさんは自分の足で施設を訪問し、経営者やスタッフと話をし自分の評価基準を作り、そのうえで紹介をする。
長年勤務している人は経験から知識も情報も豊富に持っていることが多い。
他力本願ではなく自己責任で施設を決める
そのためには介護者(たとえば家族)は多様な施設を実際に見て回ることだ。ケアマネから紹介されたことをうのみにするのではなく、勧められたとしても、自分の足で目で見ることだ。
疲れ切った家族は言いなりになってしまうことが多いがそれはいけない。
もうひと踏ん張り足しげく通い、施設の人と話をすることが大事だ。
また、「とても良い人だったからここにする」と、決める人が多いのだが、それがオーナーならともかく、管理者だろうが誰だろうが従業員はいつか辞めると考えていたほうが良い。
かりにオーナーであったにせよ、自分の言動を通してメンバーを主体的に動かしてしまうパワーと影響力のリーダーシップを持った人かどうかは見極める必要がある。
トドのつまり、100%Goodはない。
施設選びというのは他力本願でなく、どれだけ自己責任で選んだかに尽きる。
在宅から施設へと環境の変化が大きいと重度高齢者は心身の変動から不測の事態に至ることも珍しくないからだ。
その過程を経ていないと、入所してからかならず後悔することになる。
また、訪問の医者や関係事業者などに不満や怒りをぶつけなくてはならなくなる。
かかる費用は最初に詳しく聞く
それから、施設見学の際に真っ先に明確に確認しておくことは諸費用である。
パンフレット等には通り一遍の表向きの内容しか記載されていないことが多くある。
突っ込んで聞かなくてはいけない。
夜間にナースコールを押したら料金は加算されるのか?
病院に連れていくのは家族か施設か、連れて行ってもらう場合に料金はかかるのか?
外出はさせてもらえるのか、など等。
あらゆる可能性をたずねておくことだ。
住宅型の施設は個性的と言えばそのとおりだが、一律の決まりがない。
そのため料金制度もまちまちになる。とくに一時金を要する施設は返金されるのかどうかもきちんと聞いておいたほうがよい。
なんて言ってるが、わが親のこととなるとからきし判断がつかない。
やっぱり家で最後まで看たい、でも夫のストレスが伝わると辛いものがあり、自分自身母親の言動に毎日苛立っているわけで。
もちろん、先立つものも重要なわけで。
施設に入ったとて、いつまで払い続ければよいのか・・
えっ? わたし今、母親の寿命を計算しました?!